三井物産がメディア関連の新事業を次々打ち出している。一日のBSデジタル放送開始に続き、来年はデジタルラジオで新サービスを開始、携帯電話向け仮想空間事業にも乗り出す。商社で際立つ積極姿勢からは三つのキーワードが浮かび上がる。利用者が限られるメディアにも取り組む「全方向戦略」。情報通信のインフラ構築よりサービスに重きを置く「機能重視」。「消費者との接点」を探る狙いもある。最終目標は資源事業に依存する収益構造からの転換だ。
▼携帯使ったファッションショー KDDI(au)の専用携帯電話などで動画や文字情報を視聴できるデジタルラジオ。この新媒体を使い、三井物産は今、若い女性に人気のモデルや歌手が出演するファッションショーの放送企画を出版社などと進めている。
携帯画面の上半分で番組を放送。下半分をデータ放送にし、モデルが着ている服を買える店のウェブサイトのリンクを張れば、番組を見ながら気に入った服を買える。
企画の主体は、九月にジャパンエフエムネットワーク(東京・千代田)と折半出資で設立したJMデジタルメディア(同)。デジタルラジオ向けに「3セグメント」と呼ぶ方式で、動きの滑らかな動画付き番組を企画・制作する。「電子商取引(EC)の番組を充実させ、アフィリエイト(成果報酬型)広告で得る口銭を増やしたい」と、三井物産の三浦正彦クロスメディアマーケティング事業室長は話す。
デジタルラジオはまだ東京、大阪圏のみの試験放送段階で、視聴者も限られる。だが伊藤博専務執行役員は「技術は日進月歩で、将来どのメディアがはやるか予想できない。色々なところに首を突っこんでおく必要がある」という。
次世代高速無線通信の「WiMAX(ワイマックス」でも商社として唯一、事業化に名乗りを上げた。既存事業者から回線を借り通信事業をする新規事業者に、顧客管理や課金などを支援する「MVNE」と呼ぶサービスだ。高橋修執行役員は投資の膨らむ伝送路の構築より「伝送路の上に、新しいサービスや機能を提供するための『仕組み』を作りたい」と話す。NTTドコモなどとの連合では免許交付を逃したが、なお事業化の道を模索する。
▼ネット広告に金融工学 昨年設立した全額出資子会社の三井物産ヴィクシア(東京・千代田)はネット上の検索連動型広告に、米ウォール街の金融工学を応用した新サービスを持ち込み、話題を呼んでいる。
米国の同広告代理店大手エフィシエント・フロンティアと提携。株や債券などへの分散投資理論を応用し、企業が自社広告を連動させるキーワードを選ぶ際、限られた広告予算をどのキーワードに割り振れば一番効果的かを分析する独自システムを導入した。ヴィクシアの坂田祥司社長は「顧客企業の実績ベースで広告の費用対効果が平均三割高まる」という。
BSデジタル放送事業では、全額出資子会社ワールド・ハイビジョン・チャンネル(東京・渋谷)が一日に放送を始めた「トゥエルビ」は二十四時間放送のうち半分を、三井物産が四割出資するテレビ通販会社QVCジャパン
「消費者に自前のコンテンツ(情報の中身)を直接届けるには(放送という)出口が必要」と同社の三輪圭輔社長。自前メディアを介し消費者と直接向き合う新たなビジネスモデルに挑む。
▼非資源の利益で半分めざす 三井物産は二〇〇八年三月期、連結純利益の七割を資源・エネルギー分野で稼ぐ。槍田松瑩社長は「資源、非資源の利益の割合を半分ずつぐらいにしたい」と話す。
だがライバル三菱商事が菱食やローソンなどとがっちり連携しているのに比べ、三井物産は消費者向け事業の足場が弱い。メーカーや小売りにEC拡大の手助けとなる様々なサービスを提供し、自らもBSデジタル放送などでECに取り組むのにはそうした弱点を補いたいとの狙いがある。
同社は過去、PHS(簡易型携帯電話)会社、アステル東京への投資で百億円を超す損失を出した。そうした経緯もあってか、最近の情報関連事業への出資額は一案当たり最大でも十数億円で、今は多様なメディアの関連事業に「広く浅く」投資する戦略だ。ただ、こうした「飛び地」の事業は相乗効果が薄い。効率性の問題が社内の経営会議でも議論になっており、変化への対応を重視した全方向戦略と効率性のバランスが課題になる。