フーテンの寅さんの口上ではないけれど、実演販売の鉄則は、雑音の中でもよく通る声、聞こうとしなくても耳に入る歯切れのいい言葉で、商品の内容を、七五調で明確に伝えることだそうだ。
テレビの通信販売番組で、商品を紹介する
売る気があるのか、ないのか。
画面にはいつも、うつむきかげんの、はにかんだ表情で映る。商品をはさんで、相方のタレントが何か言うと、引き気味に「はーぁ」とうなずき続ける。「で、北さん、お値段は?」とせかされると、右手の甲で額の汗をぬぐい、後ずさりしながら、「2万、9千、8百円……」。
声のトーンが少しずつ下がり、語尾ははっきりしない。タレントとの関係は、漫才の「ぼけ」と「つっこみ」に似る。ギャップがおかしい。
このキャラクターが、インターネットのテレビ実演販売人の人気投票では第1位。「あの感じについつい……」とファンレターが届く。ビートたけしやタモリにはネタにされる。トーカ堂は年々売上高を増やし、02年6月期は75億円だ。
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麦畑の中に、ぽつんと白い2階建て。福岡県篠栗(ささぐり)町の会社を訪ねた。
「これ、アイデアでしょう」
画面とはうって変わり、途切れることなくしゃべる。
「あの、火星が大接近する8月27日、僕の誕生日なの。新聞見てて、ふっとひらめいた。天体望遠鏡、いいんじゃなか、って」「誕生日を話のまくらに、売り文句は、星を見ながらストレス解消、ですね」
昔は、口下手で恥ずかしがり屋だったという。「教科書読んでみんしゃい、って、先生に指されるのがつらかった。あがっちゃって」
高校時代まで、父が働いていた福岡市の米軍基地内で暮らし、福岡大体育学部に進んだ。高校の体育の先生になろうと思っていた。でも、就職指導担当者に「倍率高かけん、無理ぞ」と言われ、あきらめた。
卒業後、手当たり次第にいろんな仕事をした。包帯など医療雑貨のセールスをやった時は、売り上げが前任者の3倍以上に増えた。
「あんた商売、うまかねぇ。控えめが、よかよ」と、薬局経営者から仕事に誘われたこともあった。
83年、陶磁器販売を始めた。農協が預金者に配る景品用に、大量に卸して軌道に乗った。勢いで翌年、地元テレビの通販に進出。最初は伊万里焼のコーヒーカップだった。
タレントと販売人の掛け合いには細かな台本が存在する。スタジオに動員した女性たちの、大げさな「驚き」声のタイミングも決まっている。それらがうまくかみ合わないと売り上げに響く。そばで、自社製品を上手にPRしてくれているか、とメーカー担当者が目を光らせる。
緊張して声が出ない。深夜、妻良子さんをタレント役に見立てて、練習した。鎮痛剤と胃薬が手放せない。名画のレプリカ、印鑑、飾り壷(つぼ)……。なかなか売れない。
「テレビ人間には、なれんばい」
悩んでいたある日、テレビ制作会社のプロデューサーに言われた。
「台本は、覚えたら、忘れなさい。せりふで、ものは売れません。本当の声を出しなさい」
気持ちが楽になった。88年、品目をカメラ、貴金属などに絞った。
「これとこれ。さらにこれもお付けして」「はい、頑張りました」
三脚、交換レンズなどをセットにしたら、爆発的に売れた。たどたどしい語り口も魅力になっていた。
◆ ◇ ◆
いまや売上高2兆5千億円の通販業界。一発勝負でリスクは大きい。社長として、受注作業を外部委託するなどして従業員を16人にとどめ、常に身軽さを心がける。
一方、カメラの前では、消費者をひきつける語り手であり続ける。
「画面の北さんは本音、それとも演技ですか」。尋ねてみた。
「いや、いや」と、例の口調でとぼけた。いつしか話がはずむうち、突然こう言った。
「あの、こだわりがあるんです」
業界に入って20年の信条という。
収録前にスタジオで商品メーカーとの会議がある。商品は、その場で初めて見て、性能を確かめ、売り込み方を考えるようにしている。そうすることで、自分の驚きや商品の「新鮮さ」を素直な声で伝える。視聴者はテレビの映像を見ているのだから、自分は商品の特徴をシンプルに伝えればいい。
声で埋め尽くす必要はない。
「言葉のあいだの間(ま)、それが、僕の声かもしれません」
この人は「役者」である。そう、得心した。